滑りやすい剣道場床は床表面の状況等による原因が主であり樹種による差は少ない

最適な塗装とは

当社では剣道場床には、床表面に何も塗らない「無塗装」を推奨しています。
これにはたくさん理由があるのですが、中でも基本的な2点をご紹介いたします。

ひとつ目に、ウレタン塗装については適度な滑りが失われるため、足裏への負担増となります。剣道の基本の足捌きは、全て擦り足だと言われています。しかし、ウレタン塗装は、床表面に塗膜が造膜することで体育館シューズの滑り止めの役割を果たしています。その滑り止めの上で素足で摺り足の練習をする訳ですから、足裏に火傷やマメを作って当然だともいえます。最近では、ウレタン塗装のグリップを利用してより前に飛び込む剣風の剣士もいらっしゃるようです。
基本の擦り足を忠実に守るのであれば剣道場床にウレタン塗装は不向きだということが言えます。

二つ目に、当社の剣道場床材は、基本的に樹齢が高く赤みが多い杉無垢材を時間をかけて乾燥させて使用します。集成材などとは違い、年輪が詰まっており、自然な弾力性に富み、表面は晩材が硬く広がり、早材と晩材の凹凸差が出難くなっております。また、カンナで仕上げられているために稽古時には足つきが良く、通常の無垢フローリングなどと違いオイル塗装の必要はございません。

オイル塗装を施すことによって色合いはきれいに保てますが、年に一度再塗布しなくてはいけません。他にも表面硬度が上がるため、適度な滑りと弾力性が失われる可能性があります。

以上の結果から、塗装をしないこと(無塗装)によって得られる弾力性・滑らかさ・温かさを重視し、当社では無塗装を推奨しています。但し、無塗装品と言えども表面の仕上げは様々ですし同じ樹種でも仕立てが異なると違う床材になります。必ず様々な仕上の剣道場床を実際に体感し、お選びいただくようにお願いいたします。

集成材や過乾燥木材を使用した剣道場の床にはオイル塗装を施した方がよい場合もあります。私どもでは、元来そのような材料をお勧めいたしませんが、既に施工された剣道場の床で「極度の滑り」や「磨耗」が気になる方はどうぞご相談ください。

木材は、もともと防カビ性や防腐性、ある程度の耐磨耗性も兼ね備えた材料です。実際に何十年も使われてきた道場でも木材の表面に勝手にカビが生えるようなことは絶対にございません。

あまりにも人間が木材に手を加えすぎることで木材の優位性・良さが失われることがあります。

剣道場建築において床材は非常に重要な部分です。
剣道場の床をご検討の際には、ぜひ木材の専門家にご相談ください。

剣道場床の塗装における参考文献
剣道場の床表面の塗装の有無による傷害・障害の発生と官能評価
池 田 孝 博

要約 本研究の目的は、剣道場の床表面の塗装の有無によるスポーツ傷害等の発生状況および道場床に対する官能評価の違いを明らかにすることである。研究対象は、九州学生剣道連盟に加盟する9大学294名の大学生である。稽古で使用する床表面に基づき大学生を無塗装群(117名)とウレタン群(177名)の2群に分け、χ2検定を用いて検討した。その結果、傷害等の発生状況で有意差は認められなかった。しかし、無塗装群の稽古時間が長いことによるover usesyndromeとウレタン群が足裏の保護に日常的にテーピングを使用していることは、傷害等の発生状況に影響を与えていると思われる。官能評価では、ウレタン塗装は踏み切り動作に適しているが、それ以外の項目はすべて無塗装が適していると評価された。しかも、ウレタン塗装で稽古している学生の無塗装に対する違和感が、無塗装の学生のウレタン塗装への違和感より小さいことから、学生は送り足移動や床感覚、身体への負担を重視し、無塗装の床を剣道に適していると評価していると思われる。しかしその一方で、道場床のutilityに起因した運動技術の変容の可能性も示唆されている。
剣道の伝統性はソフト・ハード両面から検討される必要がある。

続く

  1. 本格的な弾性床構造の剣道場とは
  2. 最適な塗装とは